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2018年10月11日 (木)

京フェス2018レポート「電子書籍で何ができるか 出版のあたらしい形をさぐるJ

京都SFフェスティバル2018レポート
(文中敬称略)

本会1コマ目、10/6(土)11:30~12:45 
●電子書籍で何ができるか 出版のあたらしい形をさぐる
西崎憲/藤井太洋/大前粟生

藤井)西崎憲さんから4つのテーマをもらった。
・短編
・所有
・経済とのお別れ
・売るということ、配るということ

西崎)英米・仏・スペイン語の翻訳をやっている。ボルヘスとか。電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」を発行。音楽もやっている。おニャン子クラブとか。『ハイスクール鬼面組』のエンディングを作曲。
大前島)小説家。『GRANTA JAPAN』でデビュー、『たべるのがおそい』(文学ムック)、惑星と口笛ブックスから初期に出た。アナログな人間です。

藤井)二年前の京フェスの海外進出の企画で、(東京創元社の)小浜さんなかなかやってこなくて。二〇一二年に『Gene Mapper』の電子書籍をセルフパブリッシング、二〇一五年に『オービタル・クラウド』で日本SF大賞受賞。SF作家クラブ会長を満期退任。(退任の喜びを込めて玉城デニーさんのごとく踊る)

藤井)電子書籍への期待。日本の出版統計、収益の違い。(統計資料を表示して、)たぶんちがう。
『たべるのがおそい』が出せるようになった、ということじゃないか。
西崎)(紙の書籍では)かなり自由にできるが、やはり売れ行きを言われる。しょうがない。創刊号八千部、ちょっとずつ低く。もう少し売れそうなものを、と版元から。あたりまえだけれど、文芸のための雑誌で、「四十枚」とか「五十枚」とかいわれる。本来は小説の都合で決まるのじゃないか。しかし、紙の計算ができないとすごく困る。電子書籍はそれがない。売れなくてもいい、もちろん売れたらいいんだけれど。独創性があって残るようなものを。既存の紙の出版社では絶対無理、最初から赤字ときまっていることはできない。電子書籍で一番売れていないものは■■■■円。収支があわない。一冊一冊で考えなくてもいい。ただただ小説のために。
藤井)出版社の求めではなく小説のために。それが見たかった、読書家として。フルパワーで書いたものを。フルパワーすぎて、「何が書いてあるのか」というものもあるが。
大前)ストックがあると西崎さんに話したら送ってみて、と言われて。ほぼそのまま載った。
西崎)誤字脱字の修正くらい、ほぼそのまま載せる。
大前)それはそれで不安。(会場笑)誉めてもらえるけれど。西崎さんは商業主義ではないのだろうな、と思って、あえて入れてみたところもある。
西崎)安い肉なのでお腹が痛くなる話。部屋が臭くなって。だれが読みたいんだろう、と。一番評判になった。
藤井)ソフトを売っていたので、データを売ることには全く抵抗がなかった。編集者であり作家であり。小売り、卸、と、意識を切り替えて。『Gene Mapper』のセルフパブリッシング版では、校正は理系の出版をやっている友人に頼んだ。友人知人に楽しんでもらうつもりで。予想に反して一万部越えた。
西崎)(「惑星と口笛ブックス」では)一番売れていないので■■■■部(伏字・記録者)。すごくいい話なのに。届けるまでが仕事。自分で作ったものは宣伝しにくい。「つまらないものですが」と、つい言ってしまう。つまらなくない。改善したい。作って終わり、は問題。
藤井)売るときは意識を変えた方がいい。(『Gene Mapper』でも)恥ずかしいコピーをいっぱい作った。バイオものに出てきそうな単語をエクセルで、順列組み合わせで。まともな日本語に直してあちこちに配って。一万部になった理由は、メディアのパブ。アサヒドットコムの記事に載って、売り上げが落ちなくなって。Kindleが出始めの頃で、私の本だけ新刊で。早川も頑張っていたが、一番新しい電子書籍が伊藤計劃、四年前。ハードっぽいものは私の本しかなかった。たしか前の年に、アンドロイドもののハードなものも(電子書籍で)出ていたが。アメリカでは一般的な、一カ所に登録するといろいろな媒体に配信される仕組みを使って。ただ、時期が悪かった。『Gene Mapper』が売れたのは、かっこいいSFを書いたから読んで、と言ってきたから。
西崎)日本人離れしている。
藤井)よくそう言われる。
藤井)『Gene Mapper』を書き始めたのはKindle Single。(アメリカでは)二〇一一年、日本では二〇一四年から。何でもっと一般化されないのかと。二~三十枚。『水から水まで』(北野勇作)がすごく売れた。読み返したり。これはちょっといいのかな、と。所有感がすごい。好きな短編を一つだけ。紙より所有感がある。
会場)web同人誌は電子書籍とは言わない? 
西崎)言える。販売する・しない、売る・売らない、は関係ない
藤井)なろう、カクヨムも電子書籍の一つ。
西崎)noteも。
藤井)昨日買いました。
西崎)noteでは、バーで聞いた恋愛の話、林さんという渋谷のワインバーのマスターの記事が、一番売れている。恋が始まった瞬間。小説も書いている。負けちゃう。そういうのもあっていいけれど、noteでも、ちょっとハードなものを。二〇~三十枚だと読んでしまう。
大前)noteのほうが早く読めてしまう。
藤井)縦書きは、やった瞬間から負けている感じ。長いカタカナ語とか。明らかに現代日本語とか段落の長さとか、つらい。noteはすーっと読める。ヘッダ画像に、こういうアスペクト比、と決めた画像を、申し合わせてジャケットで入れるといい。
西崎)noteで、三日で二万六千円売れた。電子書籍ではあれだけ苦労したのに、と悲観した。ここで悲観したらまずいな、と。noteの利点も生かして。電子書籍は機器によって表示が違うし、フォントも二つしかないし。
藤井)書籍の所有。一冊手に入った感じ。
西崎)noteは残らないんじゃないか。電子書籍は売れなくても残るんじゃないか。本のアウラ、手書きの画像を奥付に貼っている。モノじゃないんだけれど、そういったモノをつけたい。
藤井)電子書籍はweb記事よりは所有感があるが、紙よりは(所有感が少ない)。電子積ん読は、本当に見ない。買ったのか買ってないのか。
西崎)紙は背表紙が見える
藤井)電子書籍はそれすら見えない。
大前島)ハヤカワのフェアでヴォネガットの持ってないのを買って、それっきり。
藤井)(スライドを示して)西暦七〇〇年、百万塔陀羅尼、「揺籃印刷」と言われる。一四九四年、グーテンベルグから遅れること半世紀、アルド・マヌーツィオが、細く小さな活字を作って、紙を折って、写本のコピーとは違う「小型本」、今の書籍の原型、を創った。
藤井)「底本」ありきの電子書籍。「ガラスの下にある本」と言われる。DTPソフトから書き出した時点で、原稿を一旦「殺して」いる。テキストは、作家が編集できるものに二度と戻ってこない。紙書籍と電子書籍は原則、一対一。角川は頑張って電子書籍の上下合本版を出しているが、合本版のレビューは、紙の(上下分冊の)レビューと共有できない。単行本と文庫本で、評価が霧散してしまう、悲しい状態。いま売られている電子書籍は「Born Digital」ではない。
西崎)増えるかどうかのキー。
藤井)増えてほしい。短編でいい。その物語のためにパッケージされている。
西崎)北野さんの『水から水まで』を、ぜひ読んで欲しい。(会場の北野勇作さんに発言を求める)
北野)とりあえず、まあ買ってください。二八〇円ですから。電子書籍とはどんな感じかなと。出版社に渡しても載せてくれないことが多い。編集部に渡しておいて、誰かが原稿を落としたら、それで出せた。電子書籍は原稿を渡して一週間で出た、そういう場なのかと。
藤井)北野さんのほぼ百字小説、サブスクリプションなら売れるかも。だんだん増えてゆく。「Born Digital」な作品。
西崎)藤井さんも前例はなかった。デザイン、パブ、すべてオリジナル。
藤井)自分で作っている。
西崎)誰にでもできることではない。
藤井)今はWordから変換できたり、epubを使うハードルはすごく下がった。やりとりは縦書きのWordファイル。編集者とやりとり。
西崎)電子出版は通常の出版とは違う?
藤井)違う。コメントが電子的に、履歴付きで埋め込まれる。コメントをつけて返す。一般的な出版社だと鉛筆の入った原稿。アマゾンパブリッシングだと、初稿が終わったら、あとは履歴を積み上げていく。
西崎)Wordは小説を書いている気がしない、クリエイティブなツールじゃない。
大前)何で書いても同じじゃないですか。私はキングソフトの低価格ソフトを使っている。
藤井)私はScrivener。書くときは横書き。(Scrivenerの編集画面を表示して)この作品が七〇枚で二〇〇円、今月末に出る。
大前)すごいハイテクですねえ。
藤井)ふつうの出版社とはアナログでやりとり。横から縦になると、ミスが見える
大前)noteは横書き、つらい
藤井)出版した事のある人?
(会場、二・三人)
西崎)noteをSFで占領しましょう。
藤井)ブログみたいな感じ。十人くらいあつまると固まりに。変わる。
藤井)経済とのお別れ。noteで同人誌。発行日をそろえて互いに編集して。一種の同人誌活動。三、四人、七、八人。noteの左右のリンクを張って。
西崎)ジャンルは同人から始まる。大きな経済から小さい経済へ。大きな経済を相手にしていると流通しやすい商品ばかりになる。コンビニみたいに売れるものしか並ばない。百人に一人のものは置けない。セレクトショップのように、ある程度自覚的にやったほうがいい。紙の本も今後も出してゆくが、大きなモノはもういいかなと。ワールドカップにジェットで乗りつけるのもいいけれど、小さいものをやった方が楽しい。でも、大前くんを誘うわけには。
大前)目標は二回増刷、初版の三倍。
藤井)初版二千部なら六千部とか。
西崎)二千~三千とか。
藤井)書店は四千軒と言われる、二千部だと全部には並ばない。
西崎)書店は気にしつつ電子書籍も。
藤井)もっとオープンにいろんな話を。書籍返本率は四割。一九九六年、出版が一番よかった時期から、ずっと四割。(この出版部数は)広告として機能していると考えたほうがいい。売れる、と考えると不幸になる。初めから戻ってくると思って、残り六割をしっかり売ることを考えたほうがいい。ディスプレイに使われて、箱が傷んで売れなくなる。三十年も続いている。返品率を減らさなきゃ、と言われるが、減るわけがない。
西崎)みな変えたくない。革新的なことをしようとすると、押さえつけられてしまう。未来がない。新しいからダメ、では未来がない。
藤井)POSで一部単位のデータが取れる。悲観的に見ようとすると、いくらでも悲観的になる。
藤井)私の『ハロー・ワールド』は、(と新刊を示しつつ)NetGalleyというものを使って、発売前に書店員とかに原稿の電子データを読んでもらえるようにした。講談社の方が頑張って。発売前に、すでにレビューが二本付いている。電子書籍版も、たいていは紙書籍版の後に出るが、この本では紙書籍版発売の前日に発売。電子版の予約も始めた。電子版が紙の本の売り上げを支える存在に。二〇一三年から、電子出版権が提唱された。
西崎)くれない会社もある、今話題のS社とか。みんな信頼しあって。いいひとばかりだから。(会場笑)
藤井)よくない。
藤井)紙の契約署でも、出版の契約書は一般の契約書とぜんぜん違う。終了条件が書いていない。ターミネーションがすごく大事。わずかに更新のところに暗示的に書いてあるだけ。
西崎)文学的な表現で。
藤井)編集者が入れた赤の権利、後書き、タイトルは編集者が決める、だれのものか判らない。毎年八万回も締結される。電子と紙の契約書が一緒にやってくる。どうやったら絶版、という条件がない。他に権利を移す。ほとんどの電子書籍が年に五部くらいしか売れていない。
西崎)■■から三年ぶりに売り上げが届いて、■■■■円(伏字・記録者)。オフレコだけれど。出版社から電子書籍だけで、紙の本は出ていない。権利をもらおうと思っているけれど。宣伝してくれない。三十年で■■。どうしてくれます?
藤井)海外では、電子出版権を買っても、年間販売部数が三十部を切ったら契約が自動終了、とかがある。それに近い形でやらないといけないが、年に数冊しか売れない本が紙とバンドルされて三十年とか。電子書籍は契約を毎年更新にしたらいい。
西崎)電子書籍には、小説の未来がかかっている。ロックミュージックの歴史でも、一九世紀のアパラチア山脈から始まって。
西崎)これからの仕事。電子書籍ではファンタジーノベル大賞受賞作が十一月に。翻訳は筑摩からアンナ・カヴァンの短編集、創元からヴィクトリア朝の話。『たべるのがおそい 6号』が出る。北野勇作、酉島伝法、谷崎由依、SFでファンタジーで。
大前)出版だと、オフレコ気味だが書肆侃侃房から来月、新潮に短編。明日、京都の映画館で哲学者の福尾匠さんと対談、書くこととか、作家とテクストの関係とか。
藤井)『ハロー・ワールド』中編集。主人公がタイのクーデターに遭ったり中国に拉致されたり、事件が次々起きる私小説。できれば予約で。予約が重版を決める。電子書籍「オウムの夢と操り人形」、二〇〇円くらい。一月に『東京の子』アンソロジー、明後日SFマガジンで『マン・カインド』の六話目を。
会場)noteはどこからアクセスできますか?
西崎)検索で。
藤井)(ブラウザを表示しながら)note.muで。
会場)あとは調べます。

<所感>
・NetGalleyで、駅から『ハロー・ワールド』の感想をアップした直後、まさか藤井太洋さんの1m前に座ることになるとは! 世の中、本当に何が起きるか判りません。私のような一般人も承認してくれた講談社の懐の深さに感嘆。ちなみにもちろん、『ハロー・ワールド』書籍版は予約済み。
・電子書籍の「自由を切り開く」側面を、強く感じさせられる鼎談でした。なんだか元気出てきた。

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